雪山遭難:リチャード・P・ルメルト著「良い戦略・悪い戦略」レビュー

雪山遭難の事例をもとに、PDCAのPについて考察してきました。Pでは、目的ー目標ー行動指針が示されていて、それらに一貫性があることが必要との考えに行き着いています。今回は随分前に読んでいい本だなあと思いつつ、読んだままになっていたリチャード・P・ルメルト著「良い戦略・悪い戦略」を雪山遭難からの流れで整理してみたいと思います。

「良い戦略・悪い戦略」の概要

この本は、2012年に日本経済新聞社から発行されています。発行時に買って読んでいたのですが、良い本だなあと思いつつ、特にそれ以上の行動には結びつけられていません。

この本では、第一部(第一章~第四章)に良い戦略と悪い戦略の例が示されます。

良い戦略の例:スティーブジョブス復帰後のApple、クエート戦争における米軍の包囲作戦
悪い戦略の例:ブッシュ政権における米国国家安全保障戦略、エンロン社

その上で、第一部の締である第五章で、良い戦略の基本構造(カーネルと呼ばれている)が示されます。

リチャード・P・ルメルト著「良い戦略・悪い戦略」より作成

私は、前回の記事で目的ー目標ー行動指針と考察しているときに、何か似たものを読んだ記憶があるぞと思い、このカーネルのことを思い出しました。カーネルと雪山を対比させると次のようになります。

「診断」と「目的」は言葉としては少し違いますが、「目的」を立てるときには自分の置かれている状況を理解することが必要ですので、ほぼ同じことを言っていると考えます。

また課題を解決するための「目標」あるいは「基本方針」があり、それを実現するために設計された一貫性のある一連の行動が必要であるとする点は、よく似ていると思います。

この本の第二部では、良い戦略ではどのように強みが生み出され活用されているかが説明されています。ただ単に、カーネルがあればいいというわけではなく、そこには当然、競合に対する優位性が組み込まれていなければならないということです。

第三部では、よりよい戦略を練るために役立つ思考法が記されています。

第二部、三部の内容は、またどこかで触れることにしたいと思います。

良い戦略、悪い戦略の具体例

診断ー基本方針ー行動について、本書で説明されている具体例について紹介します。すべて リチャード・P・ルメルト著「良い戦略・悪い戦略」 の記載を、筆者が図式化したものになります。

良い戦略として示されているのは以下のような例になります。

一方、悪い戦略として示されているのは以下の事例です。

まとめると、戦略っぽいものを立てていても、きちんとした診断により根本的な問題が特定されていない限りは意味がない、また具体的な行動を想起させないような戦略は意味がないということかと思います。

雪山の場合は、全員で無事に下山するという目的があまりにも自明であったため、目的ー目標ー行動指針の連鎖がうまくいったものと思います。

一方ビジネスでは、会社の最も大きな問題点を一つだけ特定すること自体がそもそも難しいと思います。それぞれの立場で問題点の見方が異なってくるでしょうし、分かっていても直視したくない問題点もありそうです。この点がビジネスにおける戦略策定を難しくしている一番の要因だと思います。

まとめ

今回は、 リチャード・P・ルメルト著「良い戦略・悪い戦略」 について、雪山遭難視点でまとめてみました。

まだ第一章しか紹介していませんので、その他の章についても別の機会にレビューしたいと思います。大変役に立つ本で、お勧めです。