雪山遭難とPDCA:なぜビジネスの現場ではPDCAが回らないのか?
このエントリーでは、ビジネスにおける戦略について、自分の仕事での経験とか読んだ本とかに基づいて書いてみたいと思います。まずは間違った地図を頼りに雪山から下山できたという有名な事例をもちいて、PDCAについて思うことを書いてゆきます。
雪山遭難
雪山遭難というよく知られた話があります。ある軍隊が雪山で遭難した。隊員の一人がたまたま地図を持っていたので、その地図を頼りに何とか下山できた。ところが下山後によく見てみると、その地図は別の山の地図であった。つまり間違った地図を頼りに下山できたのだというお話です(実話だそうです)。
この事例について、「なぜ間違った地図をもとに下山できたのだろうか」と考えることがあります。「間違っているにしても方針を立てて、一貫した行動をとることができた」「方針をもとに、全員の気持ちを一つにすることができた」「雪山の地形には、個々の山の特徴を超えた大きな類似した傾向があるものだ」などといったことが思い浮かびます。
ふと思うのですが、これらは混とんとした未来に向かってビジネスを行うときの様子とよく似ているところがあるのではないでしょうか。
雪山遭難をPDCAで考える
ビジネスにおいてPDCAという言葉があります。
P:Plan 計画。
D:Do 実行。
C:Check 検証。
A:Action 改善。
しっかりと計画を立てて(P)、やってみて(D)、うまくいっているかどうか確認して(C)、うまくいっていないところは改善する(A)、このサイクルを回すことで、目標を達成しようとする考え方です。
企業においてPDCAは基本として教わる考え方です。ところがやってみようとすると意外と難しい。分かっちゃいるけど・・・、みたいな感じで、PDCAが回っていますと胸を張って言える会社は少ないのではないかと思います。
雪山遭難においてはこのPDCAがうまく回っていたのではないかと思いました。具体的には次の図のような感じです。
何ということはないですよね。雪山で遭難して、地図があったら誰でもこのようにして下山を試みると思います。
ところがビジネスになると、これが回らないのですよね。なぜでしょうか?どうすればPDCAを回して目標を達成できるようになるでしょうか?
シミュレーション
自分が遭難した気持ちになって、具体的にどのような行動をとったか、シミュレーションしてみました。
Plan
雪山で遭難して絶体絶命かと思っていたらなんと地図があった。これは幸運だ。この地図に従って下山すれば何とかなるかもしれない。今自分たちがいるところはこのあたりだ。一番近い町はここだ。ということはこういうルートを進めば最短で下山できそうだ。この距離なら全員で1日かけて下山できそうだ。
1日で下山できるということは宿泊の装備はいらないだろう。できるだけ装備を少なくして急ぎたいので宿泊用の装備はおいていこう(ただし目印をつけてわかるようにしておこう)。
隊列を考えよう。先頭には馬力のある人を配置して、隊のために雪道を踏み固めてもらおう。その分、これらの人たちの装備を軽くして、後続の人で分担して運んでもらおう。先頭隊は30分おきに後退しよう。
Do
出発だ。今のところ天気も良好。隊列も思うとおりに組めた。先頭隊は順調に道を切り開いてくれている。後続隊は少し荷物が重いが、道が歩きやすいので何とかなっている。
Check
ルートがあっているかを地図で確認しよう。この道を曲がると左手に峰が見えるはずだ。あれだな。その先は緩やかに左に曲がっていくはずだが・・・、あれ?雪が崩れていて道になりには進めないなあ。
先ほどの地点からここまでに1時間かかっているな。とするとこのペースでは日が暮れるまでに下山するのは難しいぞ。
Action
思っていた道が通れない。とするとここを迂回して、あそこから元のルートに戻ろう。
ペースアップが必要だ。先頭隊がちょっと疲れているようだな。先頭隊を交代させよう。
・・・
という感じで、地図に基づいて計画を立てて行動を開始し、常に地図を見ながら計画と実際の差を検証して、行動を微調整すると思います。
PDCAサイクルと言いますが、C→A、C→Aということが頻繁に起こりそうです。例えばCにおいて「これでは日没までに下山するのは無理だ」となった場合は、Pに戻って「1泊して翌日に下山する」という計画に変更し、それに合わせてDを変えることになるのだと思います。
地図の役割
あらためて地図の役割について考えてみました。
- Planが明確になり、集団の構成員の間で高いレベルで意識統一ができる。
- 地図に従っていけば自分たちの目標が達成できるだろうと、皆の気持ちが高まる。
- 指針に対して心底から納得しているので、Doを計画するに際して、異論が出ない。
- 常に地図を見ながら進むので、Doと同時進行的にCheckができる。
- CheckによってPlanとのずれが分かった場合に、ただちにActionを取ることができる。
- Actionの方向性についても異論が出ない。
- 上記の結果、一貫性の高いPDCAを高回転で回すことができる。
実際のビジネスでは?
では、実際のビジネスの場ではどうでしょうか?
まず地図のように頼りになり、社員全員が賛成し、意識が高揚するような計画を立てることができるでしょうか?この意見はある部分では正しいけど、この観点からみると正しいとは言えないとか、いろいろな立場の人がいろいろなことを言って、社長はああ言っているけどね・・・、というようなことが起こっていないでしょうか?
そもそも、不確実性の高いビジネス環境において地図のような頼りになる指針を作ることができるか?という疑問もあるかと思います。しかし、雪山遭難では地図は間違っていたのです。とすると、地図が正しいかということよりも、構成員が心を一つにすることができるか、一貫した行動(PDCA)を取ることができるか、のほうに力点があるように思います。
方針に心から同意しているわけではない場合、行動の一貫性を担保するのは難しいと思います。特に多くの部署に分かれて活動していて、その連携が重要な場合には難しくなるでしょう。将来と現業の間での優先順位などで部署ごとに考えが違っていて、ちぐはぐな行動をとってしまうこと、あるのではないでしょうか?
Doと同時進行でCheckをするというもの難しいと思います。Plan、Doの計画を立てたところで現業に埋没し、Checkは予算とセットで1年に1回だけとか、忙しいことを口実に現業に埋没して、Checkなんてそもそもしていないというケースが多いのではないでしょうか。
さらにActionとなると心もとなくなります。計画に到達していない場合に計画を低くしてしまったり、事業環境の変化を口実に、計画が達成されないことを正当化していないでしょうか?そもそもCheckを年に1回しかしていないので、計画が達成されそうにもないことは分かるけれども、何が原因なのか特定できていないことが多いのではないでしょうか?結局、「みんな頑張れ」がActionになっていたりして。
まとめ
雪山で命がかかっているときには、誰でもほぼ自動的に回すと思われるPDCAが、ビジネスの場では回っていないことが多いと思います。
次回以降は、ではどうすればよいのかということについて自分なりに考えたことを書いていきたいと思います。
自分はビジネス関係の書籍は時々読んでいて、読んでいるときには「いいこというなあ」と思っているのに、いざ読み終わると、結局どうすればよいのかよくわからなくなっているということが良くあります。というか常にそうです。そこで雪山遭難での学びを一つのフレームワークとして用いて、自分が感銘を受けた書籍を図式化して、実行できるようにまとめることにも挑戦したいと思います。