「歴史の教訓」を読んで:愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶというけれど

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、といいます。誰しも未知の困難に立ち向かうときに過去の事例を参考にしたくなります。その際のデータベースとして、個人の経験よりも、膨大な歴史のほうがいろいろなケースを含んでいるし、その結果も明らかになっているので、歴史を参照できる方が賢明な判断ができるということです。

自分は歴史をほとんど勉強してこなかったので、この言葉を前にして項垂れるばかりです。神戸大学三品教授の著作に以下のような記述があったと思います。米国の大学生は、大学に入ると膨大な読書をしてリベラルアーツを学ぶ。米国の大学に行くと分厚いシュークスピアの原書を抱えた大学生を見かけることになる。一方で日本人は高校では知識詰込みの受験勉強、大学では遊ぶことに忙しくそのような学習をしていない。そして50歳も過ぎて管理職になったところであせって塩野七生さんの著作を読んだりする。「勝負あった」であると。ぐうの音も出ません。

しかしそんな歴史に学んでも、歴史を誤用することが多いという本を読みました。アーネスト・メイ著作の「歴史の教訓」という本です。1973年に発行された本です。アメリカの戦争に関する意思決定を題材に、アメリカの外交政策形成者は、歴史に学ぶ際に「自分が正しいと信じる」事例を選択してしまいがちだし、その解釈も「まず思いついたこと」に囚われがちで、その反証となる事例を深く探求することもないということを、第二次世界大戦、冷戦初期、朝鮮戦争、ベトナム戦争を題材に説明しています。「歴史」といっても幅広く、何を題材に、どのような教訓を得るかによって、「利用」も「誤用」もできるということです。

そもそも歴史を知らない上に、歴史に使い方にも上手い下手があるということですから、ため息が出てきます。

メイさん、この説明の後に、今後のアメリカの外交に関する予測を行っています。

  • 共産主義国に対して、戦争に至らない形での敵対関係が維持される
  • 戦争介入の危険を減らすためにアメリカの対外公約を徐々に定義しなおす
  • 大統領は、戦争の危険を冒すことに躊躇するだろう
  • 世論は孤立主義的傾向に向かうであろう。真珠湾攻撃に匹敵するかそれ以上の奇襲がなければ、アメリカの対外政策世論の性格や構成や傾向性が変わることはないであろう

そして予測を次のように締めくくります。

遺憾ながら私はまた、自分たちが比較的貧しいと民衆が考えている地球上の大部分の地域に、アメリカ経済がますます進出していくことから生ずる諸問題に対して、アメリカはただ一時しのぎの政策を今後も長くとり続けるものと予想する。それを遺憾と言うのも、私の見るところ彼ら民衆がアメリカ経済に対して持っている反発こそ、おそらく次の十年、ないしその次の十年間のいつかに、アメリカ外交政策の画期を作る様々な事件を生むことになるにちがいないと、予測するからにほかならない。

アーネスト・メイ著「歴史の教訓」(岩波書店)より

さて、実際はどうだったでしょうか?メイさんの予測通り、中東においてアメリカに対する不満が高まり、真珠湾攻撃に匹敵する9.11のテロが起こり、戦争を嫌っていたはずのアメリカ世論は戦争を支持し、ブッシュ政権は対テロ戦争を始めます。ブッシュさんは湾岸戦争後のイラクについて、第二次世界大戦後の日本と同様に民主化できると考えていたといいます。同じ考え方からアフガニスタンの民主化に深入りし、多大な犠牲を払ったうえで、目的を達せぬまま撤退します。真珠湾攻撃、戦後日本の民主化、ベトナムへの介入などが参照事例になると思いますが、決して歴史から上手に学んでいるとは言えないように思います。

賢者は歴史から学ぶ、されど歴史に学んだからと言って正しい行動がとれるとは限らない。頂ははるか高いところにあるように感じます。あるいは、戦争は少なく間違えた方が勝利するという至言が正しいのかもしれません。